なぜ「ビジネス倫理・技術者倫理の前提知識」をソクラテスから始めたのか。それはこれからの時代を生きてゆくことに連綿としてつながってゆく知恵の源流が、ここにあると思うから。
 これからの時代を、充実感をもって楽しく生きるためにどうしたらよいか。できたら専門性を持ちたい。自分の持っている専門性をこれからの社会の中に位置付けたい。
 ソクラテスは自分が何かを知ってはいないことを識者との対話を通して知ろうとした(無知の知)。それは必然的に既知のことを批判的1に考えること、それを発言することにつながった。ソクラテスの批判的な言動2は、それを肯定的に受け入れる人もいたが、時のアテナイの指導者の反発を招き、裁判で死刑になった。
 対話を通じて正しいことを知ろうとすること、それを生活の中で実践すること、それは進むべき道を自ら切り開いてゆかなければならない21世紀を生きる人にも通じることではないだろうか。

【脚注1】批判的であることは重要である。批判の対象を自分自身とすれば、それは自分の正しさをも批判することになるから、過信、妄信、横暴、独断といった、専門家や経営者が陥りがちな落とし穴を避けることにつながる。その知的謙虚さは、批判的・創造的対話を通して新しい知識・知恵を生む。

【脚注2】合理的であるために批判的であろうとすることに注目するならば、その源流はソクラテスではなく、イオニア学派に置いた方がよいのかもしれない。

(大来)